手でつながる街、長野・松本(民芸編)

個人が好きだ、美しい、と感じて集めた品々をひとつずつ見ていくのは楽しいし面白い。ものに人を惹きつけるパワーがあって、そのパワーはどんな部分から発せられているんだろうと考えてみることは、ともすると通り過ぎてしまうようなさりげない魅力を掴まえるきっかけになる。一生懸命にものを見て審美眼を養ったひとや、自らも職人であるようなひとが選ぶものなら尚のことだ。

と思いつつも、そういった鍛錬を重ねたひとたちだけに限った話ではなく、誰かが選んだものは本当はいつだって面白い。少し主題から逸れるけど、あらゆるものが一堂に会すリサイクルショップの面白さはそこにあると思う。一度は誰かに選ばれ、手放され、再び選ばれるものたち。水辺で偶然拾われてどこかの家の窓際に並べられた貝殻や石のように無意味で意味ありげなものたち。

民芸の話に戻ろう。
今回の旅のちょっと前から思い立って柳 宗悦『手仕事の日本』を読み直していた。全国各地の手仕事をエリアに分けて取り上げているので旅先の頁を読めばより印象に残りやすく面白いかもしれないと思ったことがきっかけだった。

松本民芸館のあとに松本城のお堀をぐるっと散歩してから入ったカフェで『手仕事の日本』の松本に関するページを読んだ。柳の目に止まったのは松本の竹細工「水篶(みすず)細工」だったという。ザルやカゴなどの当時の生活必需品のほか、竹を平に網代編した敷物などがこの地域に特徴的だったらしい。

しかし、この水篶細工は2009年に最後の職人さんが亡くなってしまったことで一度途絶えてしまったのだそう。けれどその後、職人を育てて水篶細工を復活させるプロジェクトが立ち上がり、「松本みすず細工の会」が結成され作品は現在でも松本民芸館の売店などで購入することができるとのこと(私が訪れたときには見つけることができなかった……)。

「どの家庭でも、愛用されてよい品だと思うので、もっと世に知られることを望みます」(『手仕事の日本』)と柳が語った水篶細工は地元では確かに愛用されてきたものの、地元の人々にとってはあまりに身近で特別視されるものではなかった。失われる寸前でその価値を見直され大事に保護されているものも増えてきているけれど、手仕事はかつてのように誰彼の生活のなかで雑多に活躍するものでなく量産品よりもずっと高いお金を払って手に入れることのできる贅沢品になっている。

一見民芸品から離れるように思われるかもしれないけれど、今回の松本滞在で生活に即した素敵なデザインの雑貨を売るショップや人と人が直接交流するなかで脈々と育まれているコミュニティや文化の一端を覗くことができた気がしている。さまざまな手仕事が栄えた城下町・松本に今感じられる「手」の気配。次回はそのあたりを書こうと思う。


※水篶細工に関する情報はウェブサイト「産直コペル」の記事に紹介されていたものを参照しました

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