蚤の市便り(DAY5)
バルセロナも秋を感じる曇りの日が増えてきた。来る前は強い日差しがさんさんと降り注ぐイメージしか持っていなかったここにも、秋になると雨の日や風が強い日もわりとあることを知る。ヨーロッパらしいこういう灰色の日は、けっこう居心地がいい。高校卒業して東京に引っ越してからもうだいぶ経つのに、私はまだ新潟の不機嫌な空を頻繁に思い出している。
隣の部屋に住むスペイン人のマルタに秋の天気のことを話すと、バスク育ちの彼女も同じようにこの天気にほっとすることがあると言う。でもバルセロナに長く暮らすうちに今では晴天のほうが心地よく感じるそうだ。私ももし長くこの地に暮らしたら、そういう変化があるのかな。
10月中旬に出かけた蚤の市の道すがら、地面に落ちていたセピア色の古写真を拾った。人気のない公園を淡々と写している写真だった。下を見ながら歩くとたまに面白いものに出会うので、それも悪くないなと思う。俯いているからと言って悲しいわけではない。すり減らない陽気さを秋の灰色に探している。
この日の蚤の市では、とても好きなハンドペインティングのお皿に出会えた。洋梨と鳥の組み合わせが愛らしく、色合いは寒色でまとめられて素敵だった。同じお店にあった彫りのある木製のトレイにも惹かれて兄弟のように見える若い店主たちから買った。
モノしか見ないここでの時間が好きで、そういうエネルギーの使い方を私自身も強く欲している気がした。見たものを買えるということも重要だった。このモノを買いたい、と思うときのモノと自分の両方を信じているように感じる瞬間が好きなのだと思う。その積み重ねで私は私を理解している気さえする。
イタリア製ハンドペインティングの八角形のプレート、木製のデコラティブなトレイ。今まで買ったことのないタイプのものにも最近は惹かれる。私自身も知らないうちに変わっていっているのかもしれない。そうだといい。