アダム、はじまりの恋人たち
今年の3月から4月に掛けて訪れたチェコ滞在の1週間前の週末、インスタグラムを通じて不思議な連絡をもらった。
知らないアカウントから突然のDM。大抵はスパムまがいのものなのでスルー、でも、念のため。メッセージを見るとスパムらしからぬ文面。
その人は外国人で、英文メッセージによればアカウント情報から私が日本人であると踏んだうえで「自分の持っている絵に描かれた日本語を読めないので意味を教えてほしい」と言う。唐突すぎる!
どんな絵かもわからないし(いたずらだったら?変質者だったら?……)返信するか数分悩んでみたけれど、どう転んでも大したことではないと思い直し、その絵の写真を送ってみてと返信。間もなく感謝の言葉とともに写真が送られてきた。
その絵は恋人からバレンタインデーの贈り物としてもらったものなのだとひと言添えられていた。描かれていたのは軽やかに小躍りする可愛い柴犬と、その横に描かれた「ハングル文字」。お手上げ!これ日本語じゃないんだ……と返信しながらふと韓国人の友人がいることを思い出した。「韓国人の友だちに聞いてみましょうか?」と一応聞いてみるとぜひ頼みたいとのことだった。
釜山で医師として日々忙しく働く友人に少し申し訳ない気持ちになりながらも乗りかかった船。件の柴犬の絵の写真を送り事情を伝えるとすぐに返事をくれた。その訳を教えてもらった今でも絵とどう関連しているのかいまいちわからない言葉だったため釈然としない。けれど、その言葉は柴犬が「今日もいい日。楽しくて、嬉しい!」と小躍りしている様子を表現しているらしかった。
それを外国人の依頼人に伝えると、内容はともかくこれまでのやりとりに満足してもらえたようでとても嬉しそうな返信をくれたのでこちらもなんとなくホッとした。そのとき、自分がまだその人のアカウントを見に行っていないことに気がついた。プロフィールに飛んでみると、カメラを構えた顔の見えないプロフィール写真のひとは男性で、若そうで、言語はアルファベットに見慣れない「✔︎」のような記号。…….もしかして?
「チェコの方ですか?」とドキドキしながら尋ねる。そうです!と返ってくる。「実は、来週末からプラハに初めて行くんです」「友だちの仕事をサポートするために5週間滞在します」「今までチェコ人の知り合いは一人もいなかったのに」「僕も日本人の知り合いは初めて」「「なんて偶然!」」
そもそもなぜ広いInstagramの世界で私だったのか。
彼に尋ねると、驚くことに彼のゲーム上でのアカウント名が ‘Saiko’ だと言う。Saikoを(=最高)の日本語だと何かで知って付けたハンドルネームで、Instagram上でSaikoと検索すれば日本人のアカウントに行き着くと確信していたのだそう。(みなさんご存知の通り)Saikoという日本人の名前は実はとても少ないのだけれど、検索結果で私の名前が1番上にくるらしく、私に行き着いたということだった。
私たちはひとしきり予想していなかったこの引き合わせを驚きあった。彼はドイツ国境近くの地方都市に住んでいるそうでプラハには時々遊びに行く程度だと言っていたけれど、フィルムで写真を撮ったり美術館巡りが好きだという。プラハのアートスポットや美味しいホットチョコレート専門店をリストアップしてくれたり、私が尋ねた蚤の市について現地情報を確認してくれたり親切にしてくれた。
彼は郊外に住んでいるので実際に会うことはないだろうと思ったけれど、私の友人が手がけるダンス公演に彼と彼の恋人を招待できるよう友人が手配してくれた厚意もあって「もしプラハに来ることができるようだったら公演に一緒にいきましょう」と伝えてあった。
そんな彼の名前は、アダム。