蚤の市便り(DAY15)

蚤の市便り(DAY15)

夏真っ盛りの暑さが何日か続いたと思えば、このところは涼しく感じる日が増えた。

雨が降ったり、重々しく曇ったりするバルセロナを暮らすまでは想像してみたことがなかったけれど、季節の変わり目や秋・冬は割とそういう天気に見舞われることが一年を暮らすうちにわかってきた。

長雨や豪雨はほとんどない。ここに暮らしていると雨はなんだかとても懐かしいものに思えて、日本にいる好きな人たちの顔を思い浮かべるときとは違う、もっと距離感をしっかり感じるやり方で雨越しに日本のことを思ったりする。

私は新潟で育ったので雨と曇天をよく知っている。見飽きてもいいくらいに。東京に暮らすようになって一年を通して足元が濡れることを気にしなくて済むことが嬉しかった。嬉しかったのだけど……。自分の心が雨と曇天に一番の安らかさを感じることをどう捉えたらいいか戸惑った。天気予報を見なくて困らない生活に憧れていたのに。

だから太陽の国、スペインに一年暮らすという考えは私から出たものではなかった。ヨーロッパの他の国は旅行していたのにスペインは去年まで来たことがなかったし、スペイン語は大学の第2外国語で取っていたけれど成績が悪すぎて単位を落とした。正直なところ、文化的にも言語的にも南欧よりも北欧のほうがよっぽど興味があった。去年までは。

どんな場所を訪れても割とどこでも好きになってしまうのだけれど、今ではスペイン・バルセロナのことをとても好きになっている。絶望的な成績だったスペイン語の転がるようなおしゃべりを魅力的に思っているし、蚤の市の店主たちとスペイン語でなんとかやりとりをするのも楽しいと思える。

ここの太陽は日本人の肌を火傷級にひりひりにするけれど、その強い光があるからこそ街中のモデルニズモ建築の煉瓦色が最高に美しく見える。時間を気にせずビーチで過ごすという一日を知ることができる。それに、時々しか降らない雨を注意深く感じることができる。

自分からは出てこないスペインという選択からたくさんのものを受け取って、たまに振り回されて。

太陽の国は私を変えずに、私を拡げてくれた。雨が寄り添ってくれるだけでは得られなかったかもしれない自分のなかの新しいスペース。いまのところはまだがらんとしたただのスペースだけど、そこの居心地をとても気に入っている。

バルセロナの古いペーパーボックス。色使いとデザインが格好いい。
日本の九谷焼の徳利とお猪口セットがなぜかエンカンツ蚤の市に。
1980年モスクワオリンピックを記念してつくられたフラワーベース(キャンドルホルダー)フォークロアなオリンピックデザインが可愛い。

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