複数いるということは心に寂しさよりも安堵を引き起こす。世話する側は自分ができることをすればいいし、受ける側にも選択肢が生まれる。そして何より気負うことなく親たちと連帯することができる。自分も子育てに関わる人間であり、同じ子どもの幸せを願っていると。自分の人生と無理に重ねることなく助け合えるし思い合える。それまでよりも社会の深度が増して、日常で見えてこなかった親子の問題や必要な手助けが実感を伴って感じられたりする。
私の場合はそれが出産未体験で子どもと縁遠い状態で起こったことに戸惑ったけれど、肯定的に捉えたい出来事だった。今回自分のなかに湧き起こり過ぎ去っていった感情は自分に子どもがいる状況では得難い感情だったと思う。改めて人はその立場を経験しなければわからないような複雑な感情を抱くものだと思った。想像することはできるけど、経験するのとは全く違うものなのだという自身への戒めにもなった。
赤ちゃんからもらった根本的な信頼は、今でも思い返すだけで自分を元気づけてくれている。それは思いがけない贈り物だった。溢れることを恐れずに、こんなやりとりをこれからも誰かとのあいだに生じさせることができたらいいなと思う。本当にそう思う。
※ぬかづきさんも執筆されている『正解は一つじゃない 子育てする動物たち』齋藤慈子 編, 平石 界 編, 久世濃子 編, 長谷川眞理子 監修(東京大学出版会)はさまざまな動物の子育てからヒトの子育ての特徴や誤解を学ぶ手がかりになりました。子育て奮闘中の方も、未体験の方にもおすすめです。