アダム、はじまりの恋人たち

プラハ滞在も2週間ほど経ったタイミングで彼から「公演を観に恋人を連れてプラハに行きます!」と連絡をもらった。初めてオンライン上で知り合ったチェコ人と、初めてのチェコで実際に会うことができる。しかも、私自身も心底楽しみにしていた友人の手がけた晴れ舞台で!そうなればいいなと思いながらいたことだったけれど、叶うとは思っていなかった。不思議な巡り合わせがふわふわとしたものではなく、そこに強度も備わっている感じがして嬉しかった。

公演当日。私たちは会場の国立劇場 Národní divadlo の前で待ち合わせをすることにしていた。クラシックな劇場の入口を見渡すと、お洒落をしたお客さんがどんどん吸い込まれていく。

すぐに「彼だ」と思うカップルを見つけた。彼のほうもすぐにアジア人である私を見つけ、ほとんど同時に挨拶を交わす。この場合はもう初めましてではなく、ちょっとした友人のような心持ちで。青いスーツにピンクのシャツと蝶ネクタイを身につけたアダムはパリッとしているのに愛らしい。大きな笑顔は少し驚くほど親愛に満ちていた。

横にいる彼女はまだこの事態が信じられないというふうに僅かに緊張感を漂わせていた。けれどとても可憐な笑顔で礼儀正しく、公演に招待されたことへの感謝の気持ちを伝えてくれた。彼女のエレガントなドレス姿も素敵だった。

「私の名前はエヴァです」と彼女が言ったとき、まさか!と思った。それじゃあふたりはアダムとイヴ。驚く私を見てふふふ、そうなんです、と可愛く笑うふたりは本当にお似合いのカップルだった。

ドレスアップしたふたりは大人びていたけれど私の目に見ても初々しくて、思わず歳を尋ねて再びびっくり。ふたりともその春に高校卒業したばかりの18歳と19歳だと言う。アダムは免許証を持っていて、住んでる町から運転してプラハまで来てくれたのだった。エヴァのお母さんはその夜のプラハ行きの理由を何度も聞いて、聞いてもなお「わからない」という顔で混乱していたそうだ。それもそうだろうと思う。本当によく来てくれたなぁと思いながら10代の頼もしく愛らしいふたりをしばらく見つめ、すっかり嬉しくなってしまった。

そうして、この夜私は荘厳な劇場でアダムとエヴァとダンス公演を並んで観ていた。バレエ公演といってもこの日の演目は現代作品のトリプルビルで作品はすべてコンテンポラリー。見渡す限り装飾されたクラシックな劇場でコンテンポラリーを観るのはそれだけで面白かった。彼らも国立バレエ団の公演をこの劇場で観るのは初めてだったそうで、とても楽しんでくれた。途中友人が仕事関係者に割り当てられたバルコニー席を彼らに代わってあげたり粋な計らいをしてくれたのもあって、ふたりとも始終笑顔が絶えなかった。

終演後。私たちは舞台の興奮も覚めやらぬまま、劇場から近いシャンパンバーで一杯飲もうということになった。チェコでは18歳から飲酒が認められている。そのあとプラハに泊まらず車で帰るという運転手のアダムは「僕は今日は飲まないけどエヴァは好きだし飲めるから行こう!」とにっこり。隣でエヴァもにっこり。

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